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タイムカードがなくても残業代は請求できる?必要な資料と集め方

「タイムカードがないから,残業代は請求できない」と言われていませんか。結論から言うと,タイムカードがなくても,残業代を請求できる可能性はあります。働いた時間は,PCの記録,メール,手帳のメモなど,ほかの資料からも示せるためです。この記事では,証拠になる資料と集め方,資料が乏しい場合の考え方,会社が記録を出さない場合の対応を説明します。

執筆・監修:日本橋法律特許事務所 弁護士 中山泰章

この記事のポイント

  • タイムカードがなくても,ほかの記録で労働時間を示せば請求できる可能性がある
  • 日ごとの始業・終業時刻が分かる資料を,複数組合せて残すことが大切
  • 資料が乏しい場合や,会社が記録を出さない場合にも,取れる手段がある

タイムカードがなくても残業代は請求できますか?

請求できる可能性があります。残業代の請求で問われるのは,実際に働いた時間です。タイムカードは,それを示す証拠の一つにすぎません。

労働時間とは,会社の指揮命令の下に置かれている時間のことです(最高裁平成12年3月9日判決・三菱重工業長崎造船所事件)。打刻の有無で決まるものではありません。

また,会社には,労働者の労働時間を適正に把握する責務があります。厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は,始業・終業時刻を,会社自らの確認,又はタイムカード,ICカード,パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録で確認し,記録するよう求めています。ガイドラインは行政の指針ですが,会社が守るべきものとされています。労働安全衛生法第66条の8の3も,労働時間の状況の把握を会社に求めています。記録がないのは,会社側の管理の問題です。記録がないことだけを理由に,請求できなくなるわけではありません。

ただし,裁判では,働いた時間を示す責任は,原則として請求する側にあります。そのため,タイムカードに代わる資料を,できるだけ集めることが重要です。

残業時間の証拠になる資料には,何がありますか?

資料は,会社が管理している記録と,自分で確保できる記録に分かれます。会社の記録があれば,原則としてそれが中心になります。実際の勤務が会社の記録より長い場合は,自分の記録で補います。どちらも,日ごとの始業・終業時刻が分かることがポイントです。請求できる金額の目安については,残業代の計算方法もご覧ください。

証拠になる資料と確認ポイント
番号 資料 何が分かるか 確認ポイント
会社が管理している記録
1 タイムカード・勤怠管理ソフト 打刻された始業・終業時刻 実際の勤務と合っているか
2 入退館(入退室)記録・シフト表 出勤・退勤の時刻,予定の勤務時間 会社に開示を求める必要がある
3 日報・週報・業務報告書 作業内容と時刻 時刻の記載があるか
4 PCのログイン・ログオフ記録 仕事の開始・終了時刻 会社が保管していることが多い
5 給与明細・雇用契約書・就業規則・源泉徴収票 所定労働時間,賃金額,手当の内容 残業代の計算の基礎になる
自分で確保できる記録
6 手帳・メモ・カレンダーアプリ 日ごとの始業・終業時刻 その日のうちに書いた記録か
7 業務メール・チャット・SNSの連絡履歴 早朝や夜間に業務をしていた事実 送受信の時刻が残っているか
8 写真・スクリーンショット 職場の時計や画面の日時 日時が分かる形で残っているか
9 交通系ICカード・ETCの利用記録 出勤・退勤の移動時刻 勤務場所との関係が分かるか
10 タコグラフ・デジタコ・ドライブレコーダー(運送業等) 運行の開始・終了時刻 休憩・待機の記録があるか(運送業・配送業)

あなたの残業代も請求できる可能性があります

勤務状況や給与の支払方法によって,請求できる金額や必要な証拠は異なります。まずは弁護士にご相談ください。

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資料が乏しいときは,どうなりますか?

手元の資料が少ない場合でも,直ちに諦める必要はありません。

  • 記録が残っている期間から推し量る:退職直前の1箇月など,メモやメールが残っている期間を基に残業時間を計算します。そして,請求できる過去3年分の期間も,同程度の残業があったと主張する方法があります。
  • 陳述書で示す:資料が全くない場合は,自分の記憶を基に陳述書を作成し,「おおむね毎日3時間残業していた」のように,概括的に主張する事案もあります。

ただし,概括的な主張や立証だけでは,事実として認められないケースが多くなります。事案によっては認められる例もありますが,できる限り客観的な資料を併せて用意することが重要です。

証拠を集めるとき,何に気をつければよいですか?

  • 在職中なら,自分の勤務の記録を確保する:勤怠記録などは,コピーやスマートフォンの写真で確保できる場合があります。ただし,会社の機密情報や他人の個人情報を無断で大量に持ち出すと,就業規則違反などの問題になることがあります。迷うときは,先に弁護士に確認してください。
  • 今日から毎日,記録する:始業・終業時刻を,手帳やスマホのメモに残します。過去の分を後でまとめて作ると,信用性が下がることがあります。
  • 複数の資料を組合せる:1つでは弱い資料でも,日ごとにつながると,勤務実態を裏付けられます。
  • 日時が分かる形で残す:写真やスクリーンショットは,加工せず,日時が分かる状態で保存します。

会社からは,どのような反論が予想されますか?

  • 「残業を命じていない」:会社が残業を知りながら止めなかった場合(黙示の指示)も,労働時間になり得ます。業務量や上司の認識が争点になります。
  • 「在社していただけで,働いていない」:休憩や私的な時間は除かれます。その時間に何をしていたかを示す資料が重要です。
  • 「自己申告の時間と違う」:申告できる時間に上限があったなど,申告が実態と違う事情があれば,主張できます。

会社が記録を出さないときは,どうすればよいですか?

まず,会社に記録の開示を求めます。個人で求めても出ない場合は,弁護士が代理人として開示を求める方法があります。

会社が記録を隠したり,改ざんしたりするおそれがあるときは,裁判所に証拠保全を申し立てる方法があります(民事訴訟法第234条)。残業代請求訴訟の準備として,会社が保管している証拠を先に確保する手続です。また,訴訟になれば,裁判所を通じて会社に提出を求める手続(文書提出命令,同法第221条)もあります。

どの手続が適切かは,事案によって異なります。なお,会社が記録を保存していないこともあります。賃金台帳などの保存期間は,原則5年ですが,当分の間は3年です(労働基準法第109条,同法附則第143条第1項)。残業代の請求にも時効があるため,早めの確認が大切です。

まとめ

タイムカードがなくても,PCの記録,メール,メモなど,ほかの資料から労働時間を示せる可能性があります。大切なのは,日ごとの始業・終業時刻が分かる資料を,複数,早めに残すことです。資料が少ない場合や,会社が記録を出さない場合にも手段はあります。どの資料が使えるか迷うときは,一人で判断せず,弁護士に確認することをお勧めします。

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